前回書いた記事
では、タイトルの通り学習成果を表す方程式と、その1つの要素である「学習時間」の求め方を解説しました。
軽くおさらいしますが、その方程式は
学習成果 = 学習時間(時間) × 吸収率(%) × 関連度(%)
であり、
学習成果の値を大きくするためには、
「学習時間」
「吸収率」
「関連度」
の3つの要素全てを掛け合わせた時の
「合計値」
を大きくする必要がある、つまりどれか1つの要素だけが大きくても他の値が小さくて合計値が小さくなったらあまり意味はない、という事でしたね。
そして学習時間に関しては、
「実際に学習が行われていた時間を」
「『月』や『年』ではなく『時間』で測る」
という事もお話しました。
そして今回は
「吸収率」
のお話です。
読んで字のごとく、学習内容を実際にどれだけ吸収できるかを表すものですね。
吸収率は、前回の学習時間以上に細かく分解して考える事ができます。
結論から言うと、吸収率を高めるために最も重要なのは
「教材の選び方、使い方」
なのですが、なぜそう言えるのかを見ていきたいと思います。
吸収率の2種類の要素
まず最初に説明しておく必要があるのは、吸収率には
・スピード系
・保持系
の2つの要素があるという事です。
スピード系は、
「情報をどれだけ素早く処理できるか」
に関する要素です。
同じ時間でも、より早く情報処理ができれば、その分だけ学習量は増えます。例えば、同じ1時間でも、英語で本を10ページ読めるのと、20ページ読めるのとでは、「学習時間」は同じ1時間でも「学習量」には2倍の差が生じます。つまり、1時間で20ページを読めるようにするのは、1時間で10ページ読める人が読む時間を2時間費やすのと同じ効果があるという事です。もちろん、1時間で40ページを読める人は、1時間で10ページ読める人が2時間費やすのと同じ効果をわずか30分で得られる事になります。
保持系は、
「処理した情報をどれだけ頭の中に留めておけるか」
に関する要素です。
先ほどの「英語の本を読む」という例で言えば、10ページ読んで10ページ分全てが身になっていれば、それは10ページ分を保持している、つまり100%の保持率と言えます。20ページ読んで身になったのが10ページ分であれば、保持率は50%となります。
吸収率は、「スピード系」と「保持系」の両方の数値が大きくなる事が重要です。例えば、1時間で10ページ読めて、10ページ全てを100%吸収できる人がいたとしても、無理にスピードを2倍にして1時間で20ページ読んで、その結果保持率が50%に落ちてしまった場合、
2倍 × 50%(つまり0.5)= 1
で、結局最終的な吸収率は変わらない事になります。
よく
「学んだ事をスポンジのようにどんどん吸収しなさい」
とか言われますが、スポンジはせっかく水を吸ってもちょっと握っただけで吸い取ったばかりの水がジョボジョボ染み出てしまいますので、個人的にはあまりイメージとして適切でないような気がします。
ですので、
「オムツのように素早く吸収し、吸い取ったものを外に逃がさないように」
というイメージの方がしっくりくるのではないかなと思います。
ですので、学習内容はスポンジのようにではなくオムツのように吸収しましょう。
そして、これからスピード系と保持系の要素となりうるものをそれぞれ見ていきます。
スピード系:頭の良さ
これは言うまでもないですね。頭の良い人であれば情報処理も速いので、同じ時間内でもより多くの情報を処理する事ができます。頭が良い方が悪いよりも有利なのは、語学においてももちろん当てはまります。
スピード系:言語の類似性
自分が既に喋れる言語と学習中の言語がどれだけ似ているか、または異なっているかは学習スピードにつながる重要な要素の1つです。似ていれば似ているほど早く身に付きやすいし、異なっていればいるほど習得までに時間がかかります。
例えば僕の場合、ネイティブ言語は日本語です。英語を勉強し始めて、英語圏の大学の授業にもついていけるぐらいのレベルになるまでには10年ぐらいかかりました。この頃の僕は学習時間を「月」や「年」ではなく「時間」で数えるという考え方がまだなかったので正確に把握していませんが、時間にすれば少なくとも3,000時間以上は費やしているはずです。英語と日本語は全く違う言語なので、既にある程度以上の年齢に達した人が高いレベルで習得するにはやはりそれぐらいの膨大な時間が必要になります。
一方で、僕の第3言語であるスウェーデン語に関しては英語の時ほど習得に時間がかかりませんでした。スウェーデン語は英語と似ており、僕がスウェーデン語に取り掛かったのは英語を大学の授業を理解したりYouTubeの動画やドラマなどを字幕なしで見れたりできるレベルで習得した後だったため、英語の知識をベースにする事でスウェーデン語の学習速度を加速させる事ができたのです。
そして僕の第4言語であるフィンランド語は英語とも日本語とも似ていないため、「既に知っている言語をベースに学習する」という戦法があまり有効ではありませんでした。そのため、スウェーデン語の時よりもどうしても学習スピードが落ちる事になります。
スピード系:上達度
ただし、いかなる言語を勉強していたとしても、上達度が上がれば吸収スピードは自然と上がります。
例えば僕のフィンランド語でいうと、最初の頃はフィンランド語のとある文章を6行読むだけでも、しっかり理解しようとすると1時間ぐらいかかっていました。知らない単語や文法項目を調べるのにかなり時間がかかっていたからです。しかし、勉強を続けてフィンランド語が上達してしばらくしてから同じ文章をもう1度読んでみたら、10分足らずで読めてしまいました。
同じ文量を読むのにかかった時間が60分から10分になったので、6分の1の所要時間、つまり6倍の速さで情報処理ができるようになっていた事になります。
このように、語学では上達をすればするほど吸収速度も上がっていきます。
保持系:理解度
情報を頭に流し込んでも、内容もよくわからずに進めているだけでは意味はありません。理解をしてこそ学習内容が身についたと言えます。
20ページ進んで5ページ分しか理解できなかった人は理解度25%
ですが、
10ページ進んで8ページ分理解できた人は理解度80%
です。ここで重要な数字は、
「何ページ分進んだか」のページ数
ではなく、
「何ページ分理解したか」のページ数です。
保持系:定着度
そして保持系の要素は、学習内容を理解しただけでは不十分です。理解した内容を頭の中に留め、定着させなければなりません。
先ほどの
20ページ読んで5ページしか理解できなかった人
は理解度は25%ですが、もしこの5ページ分全てをずっと覚えていたとしたら、
定着度は5ページ分
となります。
10ページ読んで8ページ理解できた人は
理解度は80%ですが、もしこの内の半分を忘れてしまったとしたら、
定着度は4ページ分
となってしまいます。
保持系の数値を高くするには、「理解度」と「定着度」の両方の値が高くなる必要があるのです。
努力で変えられる吸収率、変えられない吸収率
吸収率にはスピード系と保持系の2種類の要素がありますが、基本的に努力ですぐに改善できるのは
保持系(理解度、定着度)
の方です。理解できるようにじっくりと取り組めば理解度が上がる可能性は高くなるし、定着するまで学び続ければ(あるいは学んだ事を実践で使えば)定着度は上がります。
その一方で、
スピード系(頭の良さ、言語の類似性、上達度)
は努力で変化させられません。正確に言えば、頭の良さは後天的にでも鍛えられるし、言語の上達度は時間をかけてその言語の勉強を続ければ上がってくるので、努力で変化させられないわけではないのですが、努力による変化が現れるまでに時間がかかるので、(すぐには)「努力で変えられない要素」として挙げる事にしました。
スピード系、保持系の両方に影響する要素
吸収率は「スピード系」と「保持系」の2つの要素からなりますが、その両方に作用する要素も存在します。それが
「疲労した状態での勉強の回避」
「教材の選び方、使い方」
です。
「疲労した状態での勉強の回避」は、吸収率を下げないようにするための要素です。
寝不足などで疲れていたら、情報を処理するスピードも、覚えた情報を頭に留めて置く定着度も全て半減してしまう恐れがありますので、それは避けたいですよね。
一方で、
「教材の選び方、使い方」
を上手にやれば、学習内容の吸収スピードと記憶の保持の両方の効果を上げる事ができます。ここで大事なのは、
「今の自分のレベルから見て少しだけ上のレベルの教材を探す事」
「自分に合った教材の必要な部分だけを使う事」
「間違って自分に合わない教材を選んでしまったら、粘って同じ教材を使い続けるのではなく、すぐに他に乗り換える事」
です。
既に知っている事ばかりの教材だったら、何も新しく得るものはありませんし、難しすぎて理解できないものはいくら時間を費やしても内容が頭に入りませんので、吸収率は限りなく0%に近くなってしまいます。なので、理想的な教材は「簡単すぎず、手応えのあるもの」です。
また、教材は必ずしも端から端まで全部使う必要はありません。たまに「この教科書を買ったからには、最後のページを終えるまでは他の教材には絶対に手を出さないぞ」という人がいますが、僕の考えではこれはあまりいいようには思えません。その教材を手に入れた時点で、最初のページから最後のページまでの全てが自分に合った内容である事がわかっているのであればそれでもいいかもしれませんが、選んでからやっぱり今の自分には合わない、あるいは必要ない教材だったと気づく事もあります。また、自分に合った内容の教材にも、読み飛ばしても問題ないような部分はどこかにあるはずで、そういう所に必ずしもわざわざ時間を使わなくてもよいです。
教材の使い方は、「辞書の使い方」をイメージしてもらえばよいかと思います。例えばオックスフォード英英辞典は2,000ページ弱ありますが、この2,000ページを端から端まで全部読む必要があるでしょうか?必要な時に調べたい単語が載っているページを開き、その該当部分を覚えられればそれでいいはずです。1ページから2,000ページまで順番に読もうとした所で、世界記憶選手権で上位に入るみたいな常人離れした記憶力を持つ人とかでもなければ、そのほとんどは頭に入るはずはなく、はっきり言って時間の無駄です。
まとめ
「吸収率」をいろいろ細かい要素に分解してみましたが、普段意識してやっていればよい事を絞り込むと、
「疲労の溜まった状態での勉強をなるべく避ける事」
「自分に合った、必要な教材の必要な部分を使って勉強する事」
の2つを徹底する事に尽きるでしょう。
特に教材選びの方は大事です。自分に合った教材を使えば吸収のスピードも保持率も高くできるし、合わない教材を使い続ければ吸収率は下がり、せっかくの学習時間の多くが無駄になってしまいます。
特に独学では、勉強に使える時間は限られている場合が多いです。限られているからこそ、時間はできる限り有効に使いたいですよね。