「北欧は理想郷」のウソとホント【現実はこんな感じ】

日本において北欧諸国が紹介される時、その紹介のされ方は大抵次の2通りになる事が多いと僕は感じています。それは

・北欧礼賛型
・北欧礼賛バッシング型

です。

前者は、文字通り

「北欧諸国は素晴らしい」
「日本も北欧を見習え」
etc

と、北欧ヨイショを前面に持ち出し、同時に日本の悪い所を批判するというスタイルです。その光景はまさに出木杉君と比較してのび太君を叱りつけるママ(or 先生)の如しで、これを見て

「ああ、そうだよな。出木杉君はやっぱりすごいや。僕も彼みたいになれるように頑張らなきゃ」

と思う「素直なのび太君」もいれば、そもそも日本がのび太君のポジションに置かれている事が気に食わないと反発する人もいます。

一方で、後者の「北欧礼賛バッシング型」も名前を見て想像のつく通りです。その論調はどれも

「北欧を理想郷みたいに言ってる奴、頭おかしいんじゃねぇの?よくあんな住みにくい国を盲目的に持ち上げて日本をこき下ろす気になれるよな。こういう奴らがいる限り日本はよくならない」

みたいな感じであり、

「北欧諸国を悪い国として紹介する」

というよりは、

「北欧諸国を良いイメージで紹介する人たちを批判する」

というのが主な趣旨となっているようです。

さてここで興味深いのは、同じ「北欧」なのに何故ここまで人々の反応が真っ二つに分かれるのか?という事。

そして僕がもう1つ思うのは、「北欧礼賛型」と「北欧礼賛バッシング型」のどちらも、その多くは実際に北欧に住んだ事や現地の人とまともに話した事のない人が推測で書いているのではないか?という事です。

「北欧の方が住みやすい」
「いや、やっぱり日本の方が住みやすい」

などと、どちらの国の方が住みやすい国なのかを巡る議論は尽きる事がありません。しかし、日本や北欧に限らず、そもそも何を「住みやすい国」の基準とするかは人それぞれであり、それによってどの国が住みやすいと思うのかも当然変わってくると思います。

僕はこの記事執筆時点(2018年2月)では北欧に住み始めてまだ日が浅いですが、それでも大多数の日本人よりはネットや本やテレビで見るだけの

「二次元の北欧」

だけでなく、実際に体感する

「三次元の北欧」

を知っています。

※追記※
2021年7月末にはフィンランド移民局から正式に就労許可が下りまして、晴れて「単なる学生」から「労働者」としての移住を成功させた事になります。これにより、「海外移住のリアルを知る者」として僕の発言の信憑性は増すと考えてよいでしょう。
下記にフィンランドでの現地就職を実現するまでの道のりをまとめた記事のリンクもありますので、興味のある方はこちらもご覧ください。

あくまで僕の皮膚感覚を基にしたものなので僕の主観は当然ある程度は入りますが、僕が今までに考え付いた北欧のポジティブな面もネガティブな面も両方紹介し、「理想郷としての北欧」のどの部分が嘘でありどの部分が本当なのか、その真実に近づく手がかりになればと思います。

ここから先は、かなり長いです。この記事、全部で1万字を超える長文ですw
お時間に余裕のある時にでも読んでみてください(^^)


ではまずは「理想郷」のイメージに隠れてあまり語られる事のない部分からいってみましょう。


高い物価、厳しい気候、当たらない日光

世の中には自分の生まれ育った国がイマイチ気に入らず、

「こんな国、出てったるがや!チタマ(地球)には他にもっと良い国がある事ぐらい、知っとるんだがや!」

と、他国へ移住する人がいつの時代もどこの国にも一定数います。北欧の人たちも例外ではなく、北欧から他の国へと移住する人たちだっているのです。

んで、僕が北欧の人に話を聞いたりして持った印象としては、彼らが自らの国を出ていく時の理由として多いのが

・物価(税金)
・気候
・日光

の3つです。

僕はけっこう前にタイに旅行に行った事があるのですが、そこでとあるスウェーデン人女性に偶然出会いました(ちなみに彼女が僕が人生で初めて出会ったスウェーデン人でした)。彼女はタイには旅行ではなく完全移住しており、こんな事を言っていました。

「スウェーデンはね、はっきり言ってあんまり住みやすい国じゃないの。物価は高いし!寒いし!!暗いし!!!だから全てが真逆のタイに来たの。こっちでは毎日楽しくやってるわ」

確かに北欧の物価はバカ高い。日本の倍ぐらいあるような気がする。物価だけでなく給料も高いですが(「1人当たり平均」でのGDPでは日本より北欧の方が上)、収入のない人にとってはこれはやはりなかなかの負担でしょう。

冬は寒いです。北欧なので当たり前ですけど(笑)
僕が現在住んでいるオーランド諸島は北欧の中では比較的温暖な地域ですが、それでもこのブログを書いている時点で最低気温がマイナス6~7℃ぐらいにはなる日が続いています。フィンランド本土に行けばもっと寒い地域だってあるわけですし、それを考えれば日々の寒さに嫌になってしまう人が一定数いるのもある程度は想像のつく事だと思います。

また、見過ごされがちなのが日照時間です。例えばスウェーデン南部のストックホルムでも冬は15:30ぐらいには既に日が沈みますし、北に行くほど日照時間はさらに短くなり、北極圏に入ると太陽が1日中昇らないままの「極夜」という状態が冬の間ずっと続きます。

また、北欧の中でもフィンランドは自殺率の高い国として知られており(←でも日本の自殺率の方がもっと高い…)、その大きな要因は「寒さと暗さ」であると言われています。人間、太陽の光が当たらないと気分が滅入るようにできているらしく、国の制度的には整っていても自ら命を絶ってしまう人の割合は決して低くはないのが現状です。


北欧の食事は日本人に合わない?

日本の食事、それも特に外食に多大なる愛着を持つ人は、仮に北欧に移住できたとしても食べ物の面で辛い思いをするかもしれません。先述の物価の高さの関係もあり、外食はバカ高いです。でもその割に、何と種類の少ない事か_| ̄|○
そして個人的には料理のクオリティは日本の方が高いと思います。

こちらに来ると、いかに日本の外食産業が豊富な種類の食べ物を手ごろな値段で楽しめるものであるかを実感できると思います。僕の知り合いにフィンランド人女性と結婚してフィンランドに移住してきた日本人男性がいるのですが、彼も

「フィンランドは確かにいろいろ制度は整っててすごくいい国だと思う。ただ、やっぱ食べ物がねぇ。。。食べ物がねぇ。。。。。。食べ物は絶対日本の方がいい」

と言っていました。

自炊が得意な人でも、欲しい食材が手に入らずに苦労するかもしれません。その最たる例がお米です。こちらでは日本のお米のようなふっくらとして粘り気のあるお米はなかなか手に入りません。欧米社会によくあるパサパサのやつです。その粘り気の違いときたら、日本のお米が粘着テープだとしたら、こちらのお米は付箋レベルです。そういえば大学時代の同級生から間接的に聞いた話だと、語学研修でカナダに行った時にお米がパサパサすぎて「こんな米食べられない…(ㅠ_ㅠ)」と泣いてたという子もいたそうです。

お酒を飲む人はもっと辛いでしょう。僕は日本でもこちらでもお酒を飲まないので正確な値段の違いは把握していませんが、北欧の国々では現地人たちが「酒の値段が高すぎる!」と常々文句を言っております。日本みたいにお店で一定の金額を払ったら一定時間飲み放題なんてシステムももちろんありませんし、酒代が日本の何倍も家計を締め付ける事になります。


北欧では現地語を習得するのは至難の業?

北欧では英語が広く通じるのですが、アメリカやイギリスのような英語圏ではなく、ちゃんと現地語が存在します。

フィンランド → フィンランド語、スウェーデン語
スウェーデン → スウェーデン語
ノルウェー → ノルウェー語
デンマーク → デンマーク語
アイスランド → アイスランド語

この中でもスウェーデン語とノルウェー語は英語にだいぶ似ている方で、他の言語と比べれば言語の性質上は習得しやすいはずなのですが、実際には北欧言語には習得において他の言語ではあまり見られない「壁」が存在します。それは北欧の人たちは英語がペラペラだという事実です。

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北欧の人たちは、一般的に現地語の下手な外国人とは現地語ではあまり喋りたがらず、すぐ言語を英語に切り替える傾向があります。彼らは英語もほぼネイティブに近いレベルで使いこなせるので、既に現地語が上手な人が相手でない限り、外国人と喋る時は英語で喋った方が手っ取り早いのです。

多くの場合、移住先の国の社会に溶け込むには現地語の習得をした方が圧倒的に有利でしょう。それは日本に住んでても英語圏の人同士で固まって英語を喋ってばかりで日本人の友達がいない人たちや、英語圏に住んでても日本人同士で固まってばかりで一切英語を喋らない日本人たちを見てればわかる事です。

現地人と仲良くなるために現地語を喋りたい。だけど肝心の現地人たちはこちらと現地語で喋りたがらない。このために北欧言語は話し相手の確保が難しくなり、それが北欧言語の上達を妨げるのです。従って、独学のやり方を知らないと北欧言語の習得は難しいと思います。それか一日中つきっきりで根気強く現地語を教えてくれる人を見つけるか。

(ちなみにデンマーク語はスウェーデン語やノルウェー語と書き言葉はかなり似ているのですが、発音がかなり違います。僕はスウェーデン語の知識のおかげでノルウェー語はある程度聞き取れる場合があるのですが、デンマーク語は全く聞き取れません)


北欧のDVは長い

北欧の家庭は平和で幸せというイメージがあるかもしれません。たしかに幸せな家族はたくさん存在するのですが、全ての家庭が仲良く暮らせているかというと、そうでもないのはどこの国でも同じ事です。北欧にだってパートナーに暴力をふるう奴は当然一定数います。そしてそうなった場合、日本よりも酷い状態になる事もあるのです。

北欧はバカンスが長くとれる事でも有名です。普通の幸せな家庭にとってはバカンスは楽しみの時間であり天国ですが、DV被害に遭っている人からすればバカンスの期間は地獄なのです。

なぜか?それはバカンスの期間中は毎日仕事が休みだから、自分に暴力をふるう配偶者が毎日1日中家にいる事になるからです。すると当然、暴力にさらされる時間も長くなります。これが日本であれば、連日のサービス残業が理由で配偶者と一緒にいる時間が短くなる事もよくあるので、DV被害を受けている人からしてみれば、パートナーがブラック企業に長時間拘束されて家に帰ってこないのは願ったりかなったりです。でも北欧にはそれがない。


北欧の移民問題

北欧諸国には、その手厚い社会福祉や寛容な社会であるという噂を聞きつけてやってくる移民が大勢います。中でも深刻なのがスウェーデン。スウェーデンは「困ってる人たちを見捨てるのはかわいそうだから」という人道的理由で難民を自分のキャパ以上に受け入れ続けてきましたが、皮肉にもそれが原因で荒れた地域が出てきています。

基本的にスウェーデン社会は難民もいずれは社会的に自立できるように教育を施して支援しようとしているのですが、難民の中には自分の出身国ですら義務教育レベルの教育も受けていない者も多く存在するため、そういう人たちにまずスウェーデン語や英語を覚えさせ、そこからさらに教育を施すのは至難の業です。まともに教育を受けられずスキルも身に着けていない人たちはなかなか仕事を得られず、それが生活を締め付けています。現地語もわからず、現地人たちとは話ができず、それが現地人と移民の間に「壁」を作る要因にもなっています。

スウェーデンに押し寄せてくる難民たちも必ずしも怠惰だったから教育を受けていなかったわけではなく、戦争や紛争に巻き込まれていたり貧困問題があったり、女性への差別があったりといろんな問題が重なってこうなっているのであり、一概に誰が悪いと責められる問題ではありません。誰が悪いのか強いて言うなら、それはそもそも難民を生む原因となった戦争や紛争を起こしている奴らとか、「女の分際で教育なんぞ受けようもんなら殺すぞ」などと脅している連中とかでしょう。



このように北欧には「理想郷」とはいえないような側面もあるのですが…

その一方で人々が持つ「理想郷」のイメージの根拠となっている素晴らしい部分が存在するのもまた事実です。

以下にその具体例を挙げます。


それでもやっぱり整っている北欧の社会制度

教育、医療、生活保護など、北欧の社会制度は優れているとよく話題になります。この中で、僕が個人的に「やっぱ北欧のシステムすげー!」と最も強く感じているのはなんといっても教育です。

僕は現在フィンランドのスウェーデン語圏であるオーランド諸島のオーランド大学で勉強していますが、学費は一切払っていません。そう、1ユーロたりとも。

北欧諸国は「全ての人は国籍、宗教、性別などに関係なく、平等に機会を与えられるべきである」という「平等の理念」を持っており、元々教育はEU圏外の外国人であっても完全に無料でした。

「大学に入りたけりゃ金を払え」(←つまり金を払えない人間には大学で勉強する権利はない)
「授業料とれば儲かるじゃん」

というのが利益追求型であるとするなら、北欧は

「みんなが幸せを追求できる社会とはこうあるべき」

という理念追求型の社会だったのです。

最近になって北欧も経済が以前ほど順調ではなくなり、右傾化、外国人排除の傾向が出てきており、フィンランドでもEU圏外の外国人からは授業料を取る事になったのですが、それは英語で授業が行われる学部のみの話であり、現地語で授業が行われる学部については今まで通り外国人も無料でよいとの事でした(2017年時点)。(ちなみにスウェーデンは何年か前に言語にかかわらずEU圏外の外国人は有料になってしまいました)

これ、ちょっと考えてみたらやっぱりすごい事だと思います。だって、

「外国人でも日本語で授業を受けるなら授業料タダですよ」

なんていう大学は日本にはないじゃないですか。ていうか日本人ですらバカにならん学費を払わなきゃいけないんだし。ましてやアメリカとかだと日本よりもさらにバカ高い学費を払わなければいけないわけです。「そんな人のために奨学金があるんじゃないか」とかいっても、多くの場合あれは実質的には借金だし、卒業後に返済に苦しんでる人だって大勢いるわけですしね。

あと、北欧は学生には優しい社会です。学生用のアパートがあり、その家賃はかなり安めに設定されています。僕が現在住んでいるオーランド諸島は首都のヘルシンキと並んでフィンランドで最も物価の高いエリアですが、それでも月々の家賃は日本円で4万円ちょっとぐらいです(しかも光熱費込み)。これがフィンランド本土の他のエリアとかになると、もっと安くなります。

ちなみに、僕が2016年に情報収集をしていた時点では、ノルウェーに関しては英語でも現地語でも、現地人でも外国人でも一切関係なく、全ての学部が授業料無料でした。ノルウェー行きも考えたのですが、自分の入りたい学部、入れる学部を考えるとやっぱりオーランド諸島がいいかなという事で、僕の場合はフィンランドに決めたのでした。


北欧では階層意識が極めて薄い

僕が北欧の好きな部分を1つ挙げるとしたら、真っ先に思いつくものが実はこれです。北欧社会の根底にあるのは、「人々は平等であり、対等であるべきである」という理念です。これをベースとした文化が形成されているため、誰が上で誰が下だとかいちいち気にする人はあまりいません。人と人は対等である以上は、敬意というのは一方通行ではなく双方向に払われるべきものなのです。

「目上の者には敬意を払え」というのは、一見敬意を重んじる教えのようにも見えますが、裏を返せばこれは「目下の者には敬意を払わなくてもよい」と解釈する事もできます。もちろん日本のように年齢や肩書を基準にした上下関係が厳しい社会においても、「実るほど頭を垂れる稲穂かな」の教えを忠実に守り、地位が上がっても謙虚な人は一定数いらっしゃいます。ですが、自分より年下だったり、「社会的な肩書」が下だったりしただけの理由で相手を見下したような態度をとる人だって少なからずいるのが現実なのではないですか?そして、「目下の者には敬意を払わなくてもよい」と解釈する人間がいるからこそ、パワハラが横行するのではないでしょうか?

この日本の縦社会の文化は、僕は10代の頃からずっと気になっていました。僕は高校時代陸上部に所属していたのですが、この高校はスポーツの強豪校で、毎年必ず誰かはインターハイに行っていました。そういう強豪校なので、昔からの伝統を重んじて先輩後輩の上下関係も厳しかったのです。学年が1つ下なら下僕も同然。2つ下なら虫けら同然。実際、僕が1年生だった頃、2年生のとある先輩から「1年は奴隷だからな。先輩の言う事は絶対だぞ」というセリフを聞いた事があります。程度の違いこそあれど、これと大して変わらないような考え方をしている人間の集まりは他の学校の部活にも、一般の企業にも、今も少なからず存在しているでしょう。

この上下関係に対する違和感は、僕がこの高校を卒業した後も残ったままでした。ある日OBである僕がこの高校の練習に訪れた時、僕の帰り際に2年生か3年生とみられる女子部員がすごく丁寧に僕に挨拶をしてくれました。その姿を見て僕は礼儀正しい子だなと好印象を持ったのですが、次の瞬間1年生と思われる女子部員に「お疲れ様です」と挨拶されてもガン無視している所を見て幻滅しました。ああ、まだ10代のこんな若いうちから人を縦に並べて、こんな「カースト制」みたいなのを意識して生きるように知らず知らずのうちに「教育」(ていうか洗脳)されているのだなと、とても残念な気分になったものです。

そういう「階層社会」を快く思わない人にとっては、北欧の雰囲気はものすごく快適です。先生とか上司とか、上下関係が全くないわけではないですが、日本のそれと比べたらほぼ無いも同然のレベルです。

北欧では階層意識が薄いために、競争意識も薄いです。学校でテストの点数で誰が上かとか、そんなもん気にしません。人と比べて自分が優れているとか劣っているとかはどうでもよく、1人1人が人生充実してればそれでよいのです。

「上下関係が緩くてどうやって組織の統率を保つの?」
「競争意識が薄くてどうやって生産性を高めるの?」

と疑問に思う人もいるかもしれません。でも現実問題、そんなモンがなくてもこっちの社会はちゃんと回っています。


北欧の優れたワークライフバランス

日本でも「ワークライフバランス」という言葉がある程度は浸透してきたとは思いますが、それでも

「大学入試のために毎日10時間以上勉強!」
「有給休暇ってなーに?それ、おいしいの?」

みたいな人がいまだにけっこういらっしゃいます。

勉強や仕事を心の底から好きでやっているのなら、一日中そればかりやっていてもそれはそれで幸せなのかもしれませんが、「やりたいからやっている」というより「やらなきゃいけない(とプレッシャーを感じている)からやっている」人だって大勢いるのが現実でしょう。

そういう人って、人生幸せなんですかね?本当にそれでいいの?本当は嫌なのに強制されてやってない?って疑問に思います。これは、こういう勉強の仕方や仕事の仕方をしている人たちが悪いというより、「そういう風にしなければいけない」という社会的なプレッシャー、それを作り上げている周りの人たちが問題なのだと思います。

北欧では、本当に心の底から仕事や勉強そのものを好きで打ち込んでやっているのでもない限り、勉強一辺倒や仕事一辺倒の生活はよしとされません。勉強や仕事は十分にやるけれど、自分のための自由な時間だって十分にとる。それができて初めて人生が充実していると言える。それがこちらでの一般的なものの考え方です。

そういえば以前僕がスウェーデン人の友達と話をしていた時、こんな話を聞いた事があります。当時彼女は就活が終わったばかりだったのですが、その時に採用の人からこんな事を言われたそうなのです。

「ごめんなさいね。あなたはまだ新人だから、バカンスは1年につき5週間しかもらえないの。それでも大丈夫?」

と。

こちらではバカンスは「5週間もある」ではなく、「5週間しかない」という感覚なのですね(笑)


北欧ではインチキが通用しにくい

フィンランド人やスウェーデン人の友達に「ブラック企業」をフィンランド語やスウェーデン語でなんていうのか聞いてみたら、「知らない」と言われました。そもそも、北欧では「ブラック企業」なんて聞いた事がないそうです。だからそれを言い表すフィンランド語やスウェーデン語の単語もないのだとか。

ちなみに英語圏ではSweatshopという単語があります。これは主に劣悪な労働条件の職場、特に「工場」を指すために使われる単語です。長時間労働で低賃金。上司からの罵声も浴びせられ、イビリもあるという、日本で言えば「ブラック企業」に相当するものです。

僕がワーホリで1年住んでいたオーストラリアにも、「奴隷農場」(Slave farm)なら存在していました。同じく長時間労働・低賃金。所によりボーナスで上司の罵声つき。給料未払いが続く所もあります。

先ほどフィンランド語やスウェーデン語には「ブラック企業」という単語はないという表現をしましたが、それはあくまで世間一般にそういう単語があまり浸透していないという意味で、厳密には一応存在はしています。それぞれHikipaja(フィンランド語)とLåglönefabrik(スウェーデン語)です。

そして、北欧にもブラック企業は実際には一応ある事はあります。例えばタイ人が経営するストックホルム市内のとあるタイマッサージ店では従業員のタイ人女性が事実上飼い殺しにされているそうです。女性従業員の方から積極的に男性客に普通のマッサージだけではなく性的サービスをも持ちかけ、それで余分にチップをもらったりしないととても生活していけないという所も存在する、という話などをスウェーデン語のニュースで見た事があります。

とはいえ、一般的に北欧社会ではブラック企業的な体質を持つ組織があったとしても、そう長くは生き残れない事がほとんどです。従業員は一時的に虐げられはしてもいつまでも泣き寝入りせずに、そんな企業にはさっさと見切りをつけて辞めていきます。複数回数の転職歴があっても「1か所で長続きしないダメな奴」というレッテルを貼られる可能性も低いので、「仕事を辞めるのが怖い」という感情は日本よりもずっと薄いです。そして何よりも、北欧社会ではインチキな運営をする組織に対しては世間の監視の目はとんでもなく厳しいのです。

大事な事なので繰り返します。北欧には、

・ブラック企業にいつまでもしがみつく人がいない(←しがみつかなくてもいい環境になっている)
・ブラック企業のような体質を持つ組織に対する世間の監視の目は尋常でなく厳しい(←上下関係は緩いのにw)

という2つの条件が揃っています。

この2つが、社会からブラック企業を自然淘汰するのに重要な役割を果たしているのです。


まとめ

さて、もう一度簡単におさらいすると、

≪ネガティブ面≫
・物価、気候、日光、食事
・現地語でコミュニケーションを取れるようになりにくい(現地に溶け込みにくい?)
・崩壊した家庭でのDV問題(バカンスの長さが逆に仇となる)
・移民問題

≪ポジティブ面≫
・教育をはじめとした社会制度全般
・人々の階層意識の薄さ
・優れたワークライフバランス
・インチキが通用しにくい社会

となります。

もちろんここに挙げた以外にもポジティブな面もネガティブな面もまだまだいろいろ出てくると思いますし、どれを重要だと思うかはその人しだい。だからこそ北欧に対する見方が割れるのだという事は、最初にも述べた通りです。

そもそも社会の背景にあるものが違うので、北欧の社会を日本にそのまま取り入れようとしても上手くいかない部分は多々あると思いますが、だからといって日本と他国を比べるのをタブー視する事もないと思います。なぜなら、いろんな国に目を向ける事は世界を知る事であり、外の国の様子を知る事は自分の国を知る事でもあるからです。

たまに「まずは自分の国の事をよく知っておけ。海外に出たいだとか世界を知りたいだとか言うのはそれからだ」とかいう人がいますが、まず外の世界を知らずにどうして内の世界の事がわかるというのでしょうか?

例えばここ最近相撲界での暴力事件の事が何か月にもわたって話題になっていますが、あれだって「相撲の世界」とその外の世界の「一般社会」を比べるからこそ「ぶん殴って躾けるのは非常識である」という事がわかるわけで、比べなかったら相撲界の体罰肯定派の人たちは「そもそも殴って躾けるのは間違いだと、少なくとも世間一般ではそう認識されている」という事すら気づかないわけです。

自分たちの内輪の世界と外の世界を比べるという事は、何もネガティブな部分だけでなくポジティブな部分に気づくのにも役立ちます。例えば2011年に東日本大震災が起きた時には、あれだけ災害で街がメチャクチャになったのに日本ではそれに便乗した略奪行為が起きませんでした(全くなかったわけではないが、少なくとも海外の国々の基準で見れば「平和」だと感じられるレベルだった)。僕ら日本人からしてみたら平常時だろうが災害時だろうが略奪しないのは当たり前の事だと思っていましたが(ていうかそれに疑問すら持たなかったし)、それは世界的にみたら「珍しい事」であり、「称賛の対象」でもあったのだけど、僕ら日本人は外の人達から言われるまでそれに気づかなかったのです。

これから日本にずっと留まる人も、日本の外へ出てみようという人も、日本の中と外の世界を両方見て、よく比べてよく理解すべきだと思います。そのようなプロセスを経てこそ、自分の国のどんな部分が普通であり、どんな部分が異常で正すべき所であり、どんな部分が世界に誇れる部分なのかがわかるからです。

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