Page 31:フィンランドの教員が日本より優秀って本当?

フィンランドは「世界で最も学力の高い国」の1つとして有名です。この話はけっこう前から日本でも欧米諸国でもよく言われている事なので、既にご存知の方も多いと思います。そしてフィンランドが何故教育の分野で優秀なのかという話になった時によく出てくるのが、「フィンランドでは教員が優秀だからだ」という主張ですね。

その根拠として、

・フィンランドでは「教師」という職業は非常に人気で競争率が高いため、自然と優秀な人材が集まりやすい
・フィンランドで教員になるためには最低でも大学院までいって修士号は取らないといけない

といった点が挙げられています。

確かにフィンランドでは教員免許を取るには原則修士号というのはよく聞きますし、僕のフィンランド人の友達に聞いても、「私は学校での成績はいつも優秀だったから大学は法学部に入ったけど、教職課程に入るのはもっと大変だよ。倍率の高さがハンパじゃないから」とか言ってましたし、やっぱり人気の職業である事は間違いなさそうです。

でも、巷で言われている「フィンランドの教師は優秀」というのは本当なのでしょうか?大学まで日本で教育を受け、日本で教員の仕事を経験し、現在フィンランドの教育を受けている僕が独断と偏見で見解を述べようと思います。

 

【フィンランドの教員を間近で見た感想】

まぁ結論から言っちゃうと、人によりますね。優秀な人は優秀だし、イマイチな人はイマイチ。授業計画が緻密によく練られていて、生徒の質問にも的確でわかりやすい答えを返してくれて適切な補助を施してくれる典型的な優秀な先生もいますし、スクリーンに映し出された教材をほぼ棒読みしているだけで、生徒からしたら「これ、別に先生いなくても自習でよくね?」とツッコミを入れたくなるような先生もいます。(実際「この授業はわざわざ教室に来るまでもない」と言ってほとんど来ない生徒もいました)

他にも「ちょっとなー」と思ったのは、喋りがボソボソしていて何を言ってるのかわかんない人でした。スラムダンクのゴリ風に言うと、

声が小さぁい!!!

ってトコですかね。

指示の出す時の明瞭さも人によってマチマチ。僕のスウェーデン語力の問題なのかな~と思いきや、スウェーデン語ネイティブのクラスメイトに聞いても、生徒に何をやらせようとしているのかがわかりやすい事もあればわかりにくい事もあり、やはり先生によって違うらしいです。

 

【日本の教員を間近に見た感想】

こっちに関しては一応教員という立場で学校にいた経験もあるので、生徒目線だけでなく教員目線で見た印象も話せます。あくまで僕の個人的な感想ですが、日本の教員の質はかなりのピンキリで個人差が激しいと思います。はっきり言わせてもらえばド底辺のゴミレベルの教員もいれば、フィンランドやその他先進諸国の優秀な教員にも決して負けちゃいない(というかむしろ日本の教員の方が更にすごいかも?)と思うような教員もいます。

≪ゴミレベル教員≫
例えばゴミレベルの教員は、授業内容もロクに教えられず尚且つ人間的にも問題ありだったりします。僕が当時勤めていた学校は良くも悪くも「いたって普通の平均的な公立高校」であり、ほんのごく一部態度の悪い生徒はいたものの、大半の生徒は礼儀正しく、落ち着いて真面目に授業を受けられる子たちでした。当然授業中の先生の言う事も真面目に聴いて理解しようと努力していますので、基本的に「成績が悪いのは生徒の授業態度が悪すぎてそもそも授業が成立しないからだ」という言い訳は通用しません。(←荒れた学校であれば話は別ですけどね)

にもかかわらず、とある先生のクラスでいざテストをやってみると平均点が29点とかそれ以下だったりするのです。(もちろん100点満点中で、ですよw)ちなみに僕が受け持っていたクラスの中で一番デキが悪かったクラスの一番デキが悪かった時の平均点は45点ぐらいでした。(よかった時は80点^^)

平均点が30点を切るだなんて、これはどう見ても生徒ではなく教える側の問題です。よっぽど教え方が悪いのか、そもそもあまりにも不適切な教材を使っているのか、テストの内容があまりにも不適切だったのかのいずれかです。で、これだけならまだしも、この例のゴミレベルの先生はこれを生徒のせいにして、しかもクラス内で特に点数の低かった子に対しては「学校辞めるか?」と罵るのです。それも他のクラスメイトのいる目の前で。

他にも、些細な事にイチャモンをつけて生徒の人格否定にまで走る先生もいました。例えば生徒のアルファベットのWの書き方が気に入らなかったようで、「何でこいつらこんなWの書き方するんだ、気持ち悪ぃ~。」とか言ったり、入試の際に中学生たちの書いた答案用紙で小文字のaなのかuなのかがちょっとわかりにくい書き方になっていた時に、「ケッ。こんな奴らに高校に入ってきて欲しくないんだよなぁ」とか呟くのです。

この先生のこういう態度は生徒が目の前にいない時だけではありませんでした。ある日この先生は生徒を職員室に呼出ししていました。すると次の瞬間、

「何万回言わせるんだ、コラァ!!!」

と、すごい怒鳴り声をあげているではありませんか。呼び出された生徒が他のクラスメイトの命を危険にさらす等のよっぽどヤバい事でもヤラカシタのかと思いきや、ブチ切れた理由は「提出物を言われた日までに持ってこなかったから」でした。そして「もういい。戻れ」と言って生徒を教室に戻らせた後に、この先生は

「ハァ…。20~30年前だったら、こういう生徒にはケツに蹴りでも入れてやれたのになぁ」

と、とても残念そうに言うのでした。

≪神レベル教員≫
その一方で、日本の学校には指導力・人間性ともに抜群の超優秀な先生もいます。(しかもリア充☆)僕は英語科の教員だったのですが、研修で他教科の模擬授業を見る機会もありました。で、ここで特にすごいなと思ったのが理科の先生と数学の先生。僕は高校時代から理数系を苦手としてきたのですが、そんな僕でも気持ち良いほどによくわかる授業でした。テーマは微分積分とかなんちゃらの化学反応とか名前を聞いただけで頭から「ふしゅるるる~」と煙が出そうなやつだったのですが、どちらの先生も実際に日常生活のどんな所で使われているかの身近な例から入り、徐々に学習内容に慣らしていって授業の後半にはもうちょっと深いところも理解させるという非常によくできたレッスンでした。

特に理科の先生の方はトーク力がメチャクチャ高く、エンターテイメント性も抜群。時間配分に気をつけながらも10分に一度は笑いを取り(それも爆笑レベルで)、生徒の心を鷲掴みにしながら授業を進めるのでした。当然この人は生徒たちからも大人気。自身の学生時代にはスポーツの経験は特になかったにもかかわらず、野球部の顧問に(半ば強制的に)就任させられると、自ら体力づくりの走り込みを始めたり、野球の練習方法を勉強し始めたりして、ちゃんと試合でも勝って結果も出しているのだから本当に大したものです。

しかもこの人、これだけ授業やら部活やらいろいろこなして学校内の仕事だけでも激務なはずなのに、同期のメンバーの飲み会やら長期休暇を利用したイベントの企画とかも積極的にやってましたし、結婚式で奥さんに用意してたサプライズビデオのクオリティもかなりのものでした。(←撮影用の遠征までしてたw)

これほどまでにいろいろやってて、一体いつ寝てるのだ?もしかして武井壮(1日45分睡眠の人)の弟子か何かか?と不思議に思ったものです。

他にも元全日本クラスの水泳選手(もしかしたら北京オリンピックに出てたかもしれなかった人)で、学校での激務をこなしながらも家事を奥さん任せにせずに積極的に参加し、お子さんともたっぷり遊んであげて、そんな中でも僕が北欧に旅立つ前にいろいろ遊び場所に連れて行ってくれたり家に泊めてくれたりした人もいます。何、このスーパーマン。いつ寝てるんですか?あなたも武井壮の弟子ですか?^^

さてこのように、日本にだって優秀な教員はいます。まぁ教員の質に関して強いて言うなら、指導力だけでなく人間的にも終わっている「ゴミレベル」の教員は今のところ僕の知る限りではフィンランドにはいなさそうな感じですかね。こっちでは授業の進め方はイマイチな先生たちも、質問すればみんな親切に答えてくれるし、穏やかな人柄の先生が多いです。人を見下してる的なオーラを出している先生にはまだお目にかかっていません。まぁ、まだこっちに来てそこまで長い時間は経っていないし、もっと現地の人から話を聞くといろいろ出てくるかもしれませんが。

 

【フィンランドと日本の教員の勤務実態の比較】

質のバラつきの違いはあれど、フィンランドと日本の教員はどちらも結局は「人によりけり」です。ですがフィンランドと日本の教員には決定的な違いがあります。

それは勤務環境です。

以前フィンランドのオーランド大学の時間割を「フレキシブルでゆとりがある」と紹介しましたが、それは教員にも同じ事が言えます。

例えば、これはとある先生の今週の時間割。

そしてこれが同じ先生の翌週の時間割。

授業の入っていない時間帯が多く、余裕を持って授業の準備や生徒からのメールへの対応をする事ができます。

ちなみに同じ週の別の先生はというと、こんな感じ。

んでその次の週。

やはり時間割にかなりゆとりがあるのがわかりますね。

≪日本ではどうなのか?≫
日本の教員の時間割はというと…?こんな程度であるわけがないです。(もちろん大学と高校の違いはあるが、それを考慮に入れても…)僕の勤務していた高校は1コマ55分で、1年目は一応「配慮」してもらえつつも1週間に15コマ授業が入っていました。学校によっては1年目でもいきなり20コマ以上やらされる所もあるらしいです。

そして日本の教員の勤務の特殊な所は、授業以外の所でかなりの労働時間を費やさなければならないという事です。

まず部活動。体育会系の部活の顧問になったら、基本練習は平日は毎日ありますので、授業や授業準備に部活の練習時間が上乗せされるわけです。多くの部活では土日も練習入ります。場合によっては半日ではなく終日練習だったり。それほど練習熱心ではない部活でも、試合があれば土日は両方とも終日潰れます。

それから、これは教員関係者以外にはあまり知られていないのですが、「授業」、「部活」以外に

「校務分掌」

というものがあります。これは会社でいう「営業部」、「総務部」、「人事部」「経営企画部」とかみたいな「部署」のようなもので、学校にも「教務部」、「総務部」、「生徒指導部」、「生徒会部」などなど、「部」がいろいろあるのです。

で、校務分掌は部活や保護者対応に匹敵するどころか、それ以上に教員の負担となる事も珍しくありません。一般的に生徒会部や生徒指導部はキツイと言われていますし、教務部や総務部もポジションによってはそれ単体でかなりの激務となります。

あなたがもし普通の会社の総務部で働いているとしたら、イメージしやすいかもしれません。例えば学校で総務部長をやっている教員は、会社での総務の仕事を全般的にやり、そこにさらに授業や部活動指導や保護者対応などが上乗せされるという風に考えてください。いかに1人の教員に過度な負荷がかかっているかがわかるでしょう。

このように、日本の教員というのは「授業・担任業務」「部活動」「校務分掌」の3足のわらじ(場合によっては4足、5足)を履くのが当たり前ですから、先ほど話に出した優秀な理科の先生や元全日本の水泳選手の先生だって、ほぼ毎月のように100~150時間ぐらいの残業(時期によってはもっと)をやっています。それに対し、フィンランドの教員(というか海外の教員全般)は部活動指導も校務分掌もありません。

「こんなに過酷な勤務条件にもかかわらず、素晴らしい仕事をしてくれている教員がいる」と考えられなくもないですが、こういった勤務環境が原因でうつ病になったり、体にガタがきて入院したりする教員が後を絶たない、というのが日本の学校の現状です。(小・中・高問わず)僕のいた学校でも精神疾患にかかりそのまま復活できずに退職してしまった先生がいましたし、連日の無理がたたって体育館での集会中に突然「バターン!」と大きな音を立てて倒れて気を失った教員もいます。このような環境下では、ゆとりを持って生徒に対応できない教員が出てくるのも無理もない事なのかもしれません。

 

【まとめ】

・フィンランドの教員も日本の教員も結局は良し悪しは人によりけり。
・フィンランドと日本では教員の勤務環境・待遇に天と地ほどの差があると言ってよい。こういった違いを考慮に入れず、「フィンランドの教員は質がよい」「日本の教員の質はまだまだ」などと言っていたとしたらそれはナンセンスであり、もっと教育現場の環境の違いにも目を向けるべきである。
・日本の学校教育の質は教員の労働環境を改善しなければ恐らくこれ以上は大して向上しないだろう。既に教員はサービス残業しまくりで心身共にボロボロであり、そこにさらにムチを打っても無意味であるどころか逆に有害ですらある。

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